親権者が未成年の子を代理して相続放棄をすることができますか。

 登記先例では、利益相反行為に当たらないとされています。しかし、判例としては、原則として親権者が、子を代理して相続の放棄をすることは利益相反としています。ただ、例外的に、親権者が子に先行して、又は同時に相続の放棄をするときは利益相反に該当しないとされています。

最高裁昭和53年2月24日判決は、後見人とその後見に服する未成年の子との間の事案につき、共同相続人の一部の者の相続放棄の結果として、相続分の増加する相続人が生ずるのであるから、相続の放棄をする者とこれにより相続分の増加する相続人とは利益相反の関係にあり、相続の放棄が相手方のない単独行為であることから利益相反行為にあたる余地がないと解するのは相当でないとしています。ただ、この判決は、共同相続人の一人が他の共同相続人を後見している場合において、後見人が被後見人を代理してする相続の放棄は、常に利益相反行為に当たるとしたものではなく、後見人が先行して自らの相続を放棄したか、あるいは自らの相続放棄と被後見人全員を代理してする相続放棄が同時にされた場合には、後見人と被後見人との間においても、被後見人相互間においても、利益相反行為に当たるとはいえないとしています。

これに対し、登記実務としては、昭和35年10月27日民甲第2659号において、親権者及びその親権に服する未成年者の両名が共同相続人である場合において、親権者が未成年者の相続を放棄するのは民法826条の利益相反行為に該当せず、特別代理人の選任を要しないが、家庭裁判所で特別代理人の選任の審判をし、特別代理人が放棄をしたときは、その放棄は有効である、としています。そして、登記先例では、家庭裁判所が選任した特別代理人による相続放棄も有効であるとしていますので、登記実務上の問題は特にないと考えられます。ただ、親権者がその親権に服する未成年の子を代理して相続放棄をすることができるかどうかは、審判実務上の問題となりますので、家庭裁判所への相談も必要となってきます。