遺言は、相手方のない単独行為であり、相手方の保護や取引の安全を考える必要が乏しいので、その解釈においては専ら遺言者の真意を探求する必要があります。その際、遺言書の文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して、遺言者の真意を探求し、条項の趣旨を確定すべきとされています。
例えば、被相続人が、東西方向に並ぶ3筆の土地を所有しており、東側は長男に、西側は次男に相続させる旨の遺言書を作成していたとします。この遺言書の記載だけでは、必ずしも3筆のどの範囲を長男と次男に相続させるものかが明らかではありません。
この点について、裁判所は「遺言書を解釈するに当たっては、単にその記載のみから形式的に解釈するのではなく、遺言書作成当時の事情、遺言者の置かれていた状況などを考慮して、その真意を探求してその趣旨を確定すべきである」とした上で、被相続人の従前の言動、現地の状況等の具体的事実を詳しく認定して範囲を特定しています(東京地判平3.9.13)。
登記手続上の問題点
上記の例のような遺言があった場合に、それに基づいて所有権移転登記をすることができるでしょうか。登記手続上、所有権移転登記を申請するには、登記の申請を担保する観点から、登記原因を証する情報を提供しなければなりません。この登記原因証明情報には、登記の目的である不動産及び権利変動に関する登記事項たるべき事項が記載されていなければなりませんが、先の例の遺言書には目的不動産の特定に十分といえる記載がありません。したがって、登記原因証明情報としての的確性を欠くと言わざるを得ず、このような遺言書を添付しても登記がされることはないと考えられます。