遺言執行者は就職の承諾をする場合、相続人に対して承諾の意思表示をする必要があります。この遺言執行者への承諾の意思表示とは別に、相続人その他利害関係人に対して遺言執行者への就職を通知しなければならないという規定は存在しません。しかし、遺言執行者は、その就職により、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の権利義務を有し、以後相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができなくなるという重大な結果をもたらすとともに、遺言執行者は、相続人の代理人とされ、遺言執行の状況及び結果について報告しなければならないとされています。以上のことから、遺言執行者に就任後遅滞なく相続人その他利害関係人に対して通知を行うことが適切です。
また、清算型包括遺贈における指定遺言執行者が、遺留分を有しない相続人に対し、遺言執行者への就職を通知せず、財産目録の交付も行わず、さらに事前の通知なく相続財産を処分したため、相続人から損害賠償請求をされた事案において、相続人に対し遺言執行者への就職や財産処分を通知しなければならないという規定は存在しないから、一般的には当然にそれらの通知をしなければならないものではないとしつつも、相続人が不測の損害を被ることがないように、「遺言執行者としての善管注意義務の一内容として」相続人に対し、遅滞なく遺言執行者に就職したことを通知するか、または相続財産の処分に先立ちこれを通知しなければならないとして、遺言執行者に損害賠償責任を認めた判例があります(東京地裁平19.12.3)。
通知の範囲として、相続人に対しては、その全員に通知を行うことが望ましいとされています。遺留分を有しない相続人であっても、民法は遺留分の有無で遺言執行者の権利義務に区別を設けていないから、通知の対象として除外すべきではないとされています。
通知書に記載する内容としては、遺言執行者に就職した旨を記載するとともに、指定遺言執行者であれば、遺言の写しの添付、選定遺言執行者であれば、家庭裁判所の選任決定正本の写しなどを添付することが必要です。また、遺言書の写しを添付して、遺言の内容を明らかにすることが必要です。なお、公正証書遺言の場合、遺言執行者が保持しているのは、公正証書遺言作成時に受領した遺言公正証書正本又はその謄本若しくはその写しです。この公正証書遺言作成時に受領した遺言公正証書正本及び謄本は、遺言公正証書原本をそのまま複写したものではなく、遺言者及び証人の署名押印欄が印字されたものであるため、公証人の認証文言と署名が付されているにもかかわらず、相続人等からその真正について疑義が出されることが往々にしてあります。そこで、通知において、原本と正本・謄本の関係、氏名・印影が印字されたものであることなどについて説明する、あるいは改めて公証役場から遺言公正証書原本の謄本を取得してそれを添付することも考える必要があります。