亡くなった方が銀行等から借り入れをしていた場合、判例は、「被相続人の金銭債務その他可分債務について、相続開始と同時に各相続人が相続分に応じて分割承継し、遺産分割の対象にならない」と解しています。また、共同相続人が連帯責任を負ったり、不可分債務を負ったりすることはありませんので、判例の見解に従うと、共同相続人は法定相続分通りの債務を承継するということになります。しかし、遺産分割の実務では、被相続人の債務を特定の相続人が負担する旨の合意をすることがあります。
・相続税における債務控除
相続税の計算にあたり、課税価格は、相続又は遺贈により取得した財産の価格から、相続開始の際現存する被相続人の債務で、相続又は遺贈により財産を取得した者の負担に属する部分の金額を控除することができます。債務控除の可能な者は、その債務を負担することになる相続人や包括受遺者(相続時精算課税の適用を受ける贈与により財産を取得した者を含みます。)です。なお、相続又は遺贈により財産を取得した時に日本国内に住所がない制限納税義務者等については、債務控除の範囲に制限が設けられていますので、注意が必要です。
なお、葬式費用は債務ではありませんが、相続税を計算するときはこれも課税価格から差し引くことができます。
・参考判例
・被相続人の金銭債務その他可分債務につき、共同相続人は、別段の指定がない限り、各自相続分に応じて債務を負担する。被相続人の金銭債務その他可分債務については、共同相続人は各自分担し、連帯責任又は不可分債務を負うものではない(大決昭5.12.4)。
・遺産分割の対象となるものは被相続人の有していた積極財産だけであり、被相続人の負担していた消極財産たる金銭債務は、相続開始と同時に共同相続人にその相続分に応じて当然分割承継されるものであり、遺産分割によって分配せられるものではない。
農業を営む1相続人の農業経営に支障のないよう遺産に属する不動産はすべてその者の所有とし、農業以外の職業に従事しているそのほかの相続人には前記不動産の価額を取得せしめる遺産分割審判例が相当とされた事例(東京高決昭37.4.13)。
・被相続人が家屋の建築のために金融機関から融資を受け、その家屋と敷地に抵当権設定登記をしていた事案において、相続人である妻に相続不動産の全部を相続させるとともに、ほかの相続人である子に対する代償金の支払を命じるに当たり、債務承継により子が金融機関に対して負う債務を妻に引き受けさせ、引受額を代償金から控除して支払を命じた事例(大阪高決昭43.8.28)。