遺産分割において、共同相続人全員がある遺産を第三者に売却し、その売却代金から諸費用を差し引いた残額を分配したいときには、遺産分割協議において、当該遺産を相続人全員の共有とした上で、相続人全員の合意の下で各自の持分を第三者に売却し、各持分の割合で売却代金を取得することになります。
遺産を共有とした上で各持分を売却しようとする場合には、売却代金の分配方法のほか、買主や売却価額等の具体的条件が決定しているのであれば、それらの条件を条項に記載します。具体的条件が未定であっても、事後の紛争防止のためには、最低売却価額、売却期限、売却代金から控除する費用の費目等をできる限り具体的に定めておくことが望まれます。
また、遺産の各共有持ち分を売却して売却代金(から諸費用を差し引いた残額)を取得した場合、通常の相続税のほか、当該遺産の売却代金を取得した相続人については、譲渡所得課税も行われます。この場合の相続税及び譲渡所得については、以下の点に注意する必要があります。
・相続税について
相続税法では、相続財産の価額は、「当該財産の取得の時における時価」により評価するとされています。時価は、実務上は財産価格基本通達に定める方法により評価されています。しかし、遺産を売却した場合いは、前記通達による評価額(相続税評価額)よりも実際の売却価額の方が、相続税法上の時価により近いのではないかという見方もあります。したがって、実際の売却価額と相続税評価額に乖離がある場合、時価の決定に注意する必要があります。
・譲渡所得について
相続のあった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年以内に遺産を譲渡した場合には、納付すべき相続税額のうち一定の金額を、譲渡した資産の取得費に加算することができるという特例の適用があります。
参考判例
・共同相続人全員の合意によって遺産分割前に遺産を構成する特定不動産を第三者に売却したときは、その不動産は遺産分割の対象から逸出し、各相続人は第三者に対し持分に応じた代金債権を取得し、これを個々に請求することができる(最判昭52.9.19)。
・共同相続人全員によってほかに売却された不動産は、遺産分割の対象たる相続財産から逸出するとともに、その売却代金は、これを一括して共同相続人の一人に保管させて遺産分割の対象に含めると合意をするなどの特別の事情のない限り、相続財産には加えられず、共同相続人が各持分に応じて個々にこれを分割取得する(最判昭54.2.22)。