遺言能力とは、有効に遺言をすることのできる能力のことをいいます。遺言も法律行為の一種であるため、遺言の際、遺言者がその遺言内容及び効果を理解判断するのに必要な能力を備えていることが必要とされます。そして、この能力を欠いた遺言は無効とされています。
では、どの程度の判断力があれば、遺言能力があるといえるのかについてですが、これは問題となる行為の特性や難易等の関係で個別に判断されるべきものであり、個々の具体的事例ごとに検討するしかありません。裁判例では、遺言者の年齢、病状を含めた心身の状況及び健康状態とその推移、発病時と遺言時との時間的関係、遺言と死亡との時期的間隔、遺言時及びその前後の言動、日頃の遺言についての意向、遺言者と受贈者との関係、遺言内容等の事実を基礎として、遺言能力の有無の判断がされています。ですから、相続人としては、できるだけ診断書、治療経過等の客観的な証拠を収集した上で、遺言時における遺言者の意思能力の有無を判断する必要があります。
なお、相続人間で遺言が無効である旨の合意が成立した場合、必ずしも遺産分割協議書にその点を記載する必要はありませんが、後日のトラブルを防止するためにも、その遺言が無効である旨の確認条項を設けることが望まれます。
参考判例
・記憶障害などの認知症が悪化した高齢者(90歳)の自筆証書遺言について、遺言者が遺言能力を欠くものであって、無効であるとされた事例
・認知症等で入院中の91歳の老人がした公正証書による遺言について、遺言者が遺言能力を有していたとは認められず、無効であるとされた事例
・弁護士が関与して作成された公正証書遺言につき、遺言能力がなく、口授の要件を満たさないとして、無効とされた事例