共同相続人全員が、遺産分割の方法を定めた遺言書の存否を知らずに遺産分割協議を行った場合、後から、その遺産分割協議の意思表示は無効であると主張できるかが問題となります。この点、最高裁判所の判断としては、遺言の存在を知らないで行った遺産分割協議の意思表示は、常に要素の錯誤により無効となるとまではいえないが、遺言の中で遺産分割の方法についてある程度明確に定めている等、遺産分割に至る具体的な経緯や事情の下でも、当該遺言の存在と内容を知っていたら、相続人らが当該遺産分割協議における意思表示はしなかったといえるような場合は、そのような意思表示は要素の錯誤により無効であると判断されることになるとしています。
・参考判例
「共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは法律上妨げられず、原判決はこれを許さないとした点で法令の解釈を誤ったものと判示した(最判平2.9.27)」。
「遺産分割後に被相続人である夫の遺言書が発見されたが、相続人が当時この遺言の存在を知ったとしても、被相続人の希望を容れて同人に相続させたという動機を勘案すれば、当該遺言書の存在が遺産分割協議の結果に影響を与えることにはならなかったと推認できるから、相続人が本件遺言の存在を知らなかったことは、相続人らのした遺産分割協議を要素の錯誤として無効とならしめるものではない(高松高判平2.9.27)」。
「特定の土地につきおおよその面積と位置を示して分割した上、それぞれを相続人甲、乙、丙に相続させる趣旨の分割方法を定めた遺言が存在したのに、相続人丁が本件土地全部を相続する旨の遺産分割協議がなされた場合において、相続人の全員が前記遺言の存在を知らなかった等の事実関係の下においては、たとえ相続人らが被相続人から生前本件土地をもらったと信じ込んでいる丁の意思を尊重しようとしたこと等の事情があったとしても、甲は本件土地を丁が単独で相続する旨の本件遺産分割協議の意思表示をしなかった蓋然性が極めて高いものというべきであり、甲のした遺産分割協議の意思表示に要素の錯誤がないとはいえない(最判平5.12.16)」。