共同相続人中に結婚の際支度金を受けた子がいる場合について

 まず、結婚の際の支度金が特別受益に該当するかどうかを検討する必要があります。特別受益とは、被相続人から共同相続人の特定の者に対する、①遺贈、②婚姻や養子縁組のための生前贈与、③生計の資本としての生前贈与をいいます。

特別受益としての婚姻や養子縁組のための生前贈与の例としては、持参金、支度金などを特別にもらった場合がありますが、各相続人が同程度の持参金等を被相続人から生前贈与されていた場合には、実務上、持戻免除の意思表示が認められ、持戻しはしない扱いとなります。また、挙式費用は通常、遺産の前渡しとはいえないので特別受益に該当しないという見解が有力です。また、特別受益に当たる生計の資本としての生前贈与の例としては、農業承継者に農地を贈与するとか、自宅の建築資金の贈与などが該当するとされています。なお、学費は基本的には特別受益に該当しませんが、共同相続人の特定の者のみ、特別に大学に進学させた場合等は特別受益に該当するという見解もあります。

なお、特別受益の額の評価基準時をいつにするのかが問題となりますが、評価基準時は、相続開始時とするのが通説・判例です。

・参考判例

被相続人が相続人に対しその生計の資本として贈与した財産の価額をいわゆる特別受益として遺留分算定の基礎となる財産に加える場合に、前記贈与財産が金銭であるときは、その贈与の時の金額を相続開始時の貨幣価値に換算した価額をもって評価すべきものと解するのが相当である。けだし、このように解しなければ、遺留分の算定に当たり、相続分の前渡しとしての意義を有する特別受益の価額を相続財産の価額に加算することにより、共同相続人相互の衡平を維持することを目的とする特別受益持戻しの制度の趣旨を没却することとなるばかりでなく、かつ、前記のように解しても、取引における一般的な支払手段としての金銭の性質、機能を損なう結果をもたらすものではないからである(最判昭51.3.18)