遺産分割は、民法906条に規定されているように、遺産に属する者又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して行われるもので、遺産分割協議では、原則として遺産全部を分割の対象とするべきです。ただし、民法907条3項に「遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる」とあることから、法律上も一部分割が予定されており、判例も一部分割を認め、また、実務においても一部分割が行われています。
一部分割を行う場合には、民法906条に定める分割基準に基づく総合的で公平な配分に支障がないように配慮する必要があり、したがって、①遺産の一部をほかの部分と分離して分割することについて、全当事者間に合意がある等、その合理的な理由があること、②一部分割をすることによって、全体としての適性な分割を行うために支障が生じないことが必要であるとされています。
・遺産未分割の場合の相続税の申告手続き
相続税の申告期限までに遺産分割がなされていない場合、未分割遺産については、民法の相続分に従って課税価格を計算するものとされています。したがって、各相続人は、法定相続分に従って申告手続きを行うことになります。そして、その後、当該未分割遺産が分割された場合に、当該分割により取得した財産に係る課税価格が先に法定相続分の割合に従って計算された課税価格と異なる場合、税額が不足する場合は修正申告をすることができ、税額が過大となる場合は4カ月以内に更正の請求をすることができます。
なお、相続人が配偶者である場合、課税価額の算定に際し、相続等により取得した財産の価額が、①民法に規定する法定相続分相当額、又は②1億6,000万円のいずれか多い金額以内であれば、「配偶者の税額軽減の規定」の適用を受けることができます。この規定は、原則として、申告期限までに遺産分割などにより配偶者が実際に取得したものに限って適用されます。したがって、未分割遺産については、「配偶者の税額軽減の規定」の適用を受けることはできません。そのため、申告時には「配偶者の税額軽減の規定」の適用のない申告書を提出することになります。
ただし、申告期限から3年以内に分割された場合には、相続税の更正請求を行うことにより「配偶者の税額軽減の規定」の適用を受けることができます。この適用を受けるためには、申告期限内に申告するに際し、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておくことが必要です。また、相続税の更正請求については申告期限から3年以内に分割された場合に限りますが、訴えが提起されている、また、調停の申立てがある場合等、やむを得ない事情がある場合には、税務署長の承認を得て、分割できることとなった日から4カ月以内まで期間を延長することができます。