様々な遺言書②

 こんにちは、司法書士の渡辺憲久です。今回のコラムでも前回に引き続き様々な遺言について書いていきます。

・残されるペットの世話をしてもらうかわりに遺産を相続人以外の人に贈る遺言書

ペットは独立した動産で、所有権の対象となります。ですので、ペットの所有権帰属の問題は、法定の遺言事項に含まれます。そのため、ペットに関する遺言をする場合、誰に相続させるか、あるいは遺贈するかを、まず明らかにする必要があります。相続人がいない場合で、信頼できる人にペットを遺贈する場合、ペットの世話をするには費用も手間もかかります。ペットだけを遺贈したのでは、相手の迷惑となりかねず、遺贈を放棄されてしまう可能性も考えられます。

そこで、ペットの飼育という負担をつけて、遺産の一部を遺贈する方法が考えられます。負担付遺贈を受けた者は、その遺贈された目的の価額を超えないことを限度にその負担を履行する義務を負います。したがって、負担の額と遺贈の額とのバランスには注意が必要です。また、あまりに遺贈する額が少ないと、ペットの面倒をみることと埋葬をするという遺言の趣旨を実現できなくなりかねませんので、気をつけましょう。また、遺贈を受ける見返りとしての負担はなるべく内容がはっきりわかるように書かなければいけません。ただ、細かいことを書きすぎるのも良くありませんので、「受遺者○○は、遺贈を受ける負担として、遺言者が長年育ててきた愛犬の面倒をみること。また、その死後は手厚く埋葬する義務を負うものとする。」等としておけばよいでしょう。

・遺産の一部で基金を作り恵まれない子供への奨学金支援を行わせる遺言書

遺言で一般財団法人を設立することも可能です。この場合、遺言書には財団法人の基金にあてる財産とその価額を記載します。お金であれば遺産のどの部分から拠出するのかも書いておくと、処理がしやすくなります。また、あらかじめそのための銀行口座等を作って所定のお金をプールしておき、その口座を記しておくようなことが考えられます。なお、財団の理事などへの就任者を自分で選ばないのならば、選ぶ人を指定しておくとよいでしょう。

一般財団法人を設立するには、遺言者が遺言書で設立の意思を表示する必要があります。その後、遺言執行者が定款を作成し、一般財団法人の設立がなされます。そのため遺言執行者に対しては、どのような法人を設立したいのか十分に伝えておく必要があります。そして、一般財団法人から、公益財団法人への移行も可能です。この場合、公益目的が主目的である必要があり、主務官庁の許可も必要となりますが、税制面で優遇されます。

・同居している婚姻外の女性に建物賃借権と預金を遺贈する遺言書

例えば、本妻(相続人)がいる遺言者(建物を賃借して居住)が内縁の妻に対して、同居している建物の賃借権及び預金を遺贈することにより、その生活の保護を図りたいといったケースが考えられます。居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合、賃借人と同居していた内縁の妻は、借地借家法36条により賃借人の権利義務を承継することになり、居住の利益を確保することができます。しかし、賃借人に本妻などの相続人がいる場合、同条の適用はなくなってしまいます。そこで、内縁の妻に賃借権を遺贈するという遺言書を作成しておく必要が生じます。

このような遺言書を作成する場合には、必ず遺言執行者を選定しておくことが大切です。そもそも本妻と内縁の妻とでは、一般的に相容れない関係と考えられますし、本件のような遺言書が出てきた場合でも、本来何の権利もない内縁の妻としては、争いを避けるため遺贈を放棄してしまうこともあると考えられます。このような事態を避け、遺言者の意思を実現するためには、遺言執行者の選定が必要となります。なお、本事例のように、相続人として本妻がいる場合、遺留分権利者となりますので、遺産の2分の1の遺留分を有します。この遺留分は侵害しないように遺言書作成には十分注意しなければいけません。

また、賃借権を譲渡する場合(遺贈でも譲渡になる)、事前に賃貸人の承諾が必要になります。無断譲渡ということになると契約を解除されてしまう可能性もあります。したがって、遺言の効力が発生する前に、必ず賃貸人の承諾を得ておく必要があります。